料理と器と照明

建築や照明に携わる仕事柄、人の営みと照明のあり方について日々模索しています。

その中で、私自身が持つ照明への考え方を見つめ直したり、新しい視点を得たりするために、良い方法として実践していることがあります。

それは、自らつくった空間と照明の中で、実際に暮らしてみることです。

デザイン設計や施工、備品選定、設えに至るまで、すべてを手がけたこの場所で、自らキッチンに立ち、料理をし、人を招いて食事を共にする。時間の移ろいや明るさの変化を体感しながら、感想や気付きを交わし合う。その積み重ねが、私にとって照明を考えるための実験になっています。

この場所には宿泊できる部屋もあるため、料理にそこまで自信がなくとも、魅力的な器の力を借りながら、お招きした方と酒を酌み交わす。そんな旅館ごっこのような時間の中で、照明の在り方を探っています。

料理の内容、時間帯、季節、一緒に過ごす相手やそのご職業まで、さまざまな要因が重なり、毎回まったく同じ条件はありません。だからこそ、一度きりの実験です。

この一期一会の実験を通して感じるのは、照明の見え方や心地よさは、単純な照度や色温度だけでは決まらないということです。タイミング、その時の感情、空間が持つ意味、交わされる会話の内容によって、同じ灯りでも印象は大きく変わります。

たとえば、キッチンで作業をするときは明るさが欲しい。一方で、スープを煮込みながら飲むワインには、少し落ち着いた明るさが心地よい。薄暗い間接照明の中での食事には趣きを感じても、片付けの時間になると照度不足に感じることがあります。華やかなシャンデリアに気分が高揚したあと、静かなコーヒータイムになると、少し眩しく感じる人もいる。

実験中は何度も調光スイッチを操作し、その場の気分に合う明るさを探します。そして参加者に感想を聞き、なぜそう感じたのかを掘り下げながら、照明設計に生かせる気付きとして蓄積しています。

照度や色味を考えるときは、「そこで何をするのか」「どのように感じたい場所なのか」「何を見せたいのか」を基準に検討する必要があります。

照明器具そのもののデザインも同じです。柔らかなフォルムで優しく見せたいのか、重厚感によって空間全体のバランスを整えたいのか。心地よい抜け感をつくりたいのか、小ぶりな灯りで静かに空間へ寄り添わせたいのか。

その場所をどう在らせたいのか。主が描くイメージを明確にした上で、照明を選ぶことが大切だと考えています。

照度やデザインに絶対的な正解を見つけることは簡単ではありません。それでも、これからも皆様に「ちょうど良い照明」をお届けできるよう、この実験と研究を続けていきたいと思います。

ちなみに、日頃から料理の腕を磨く時間より、器探しに費やす時間の方が長い私は、何よりまず格好から入る器好き人間です。

全国の器産地や窯元近辺からの出張打合せのご依頼を、今か今かと楽しみにお待ちしております。