Atelier Key-menには、制作アトリエとは別に滋賀の里山にハウススタジオがある。
330坪の敷地に3棟のリノベーションした古民家や納屋があり、その中には私専用の工房や茶室などを備えている。
茶室の名は、至不亭 (いぶてい)。 至らぬ茶室という意味である。作法や様式に覚えのない私が、この茶室で来客に無手勝な茶を点て庭を眺めながらうんちくを垂れる、そんな場所とした。
床間には、その時の気分であれこれと設いを施すのであるが、実は掛軸を掛けたことがない。
まだ手に入れたことすらなかったが、この度、よい茶掛を頂いた。
時は遡り、4年前にこの茶室を作っていた頃のこと、Atelier Key-menの設立当初より私を気にかけてくださる中島さんという方が面白い話をしてくれた。
中島さんの昔の同僚が四国の実家を整理するから来ないかと。その実家が作庭家 重森三玲の生家の隣だということだった。重森三玲が帰省していた際に、同僚の叔母さんに「三玲くん、有名になったんだね〜、何か一筆書いてよ!」と頼まれ、ささっと書いた書が、「只楽」だった。
中島さんがその書を見つけたときには、簡易な額縁に入った状態で無造作に置いてあったらしくシミも点々とついていた。
かの有名な作庭家もお隣さんにとっては、隣の三玲君だったんでしょうね。
茶室の完成から4年が経ち茶室に名を付けたと中島さんに報告すると、祝いを持って行くと返事が来てふわりと山から降りてきた。まさに仙人である。
その手には、長い筒箱。なんと茶室の床間にと軸を一本持って来てくださった。あの「只楽」である。
「只楽」と書かれたこの書は、話に聞いていた出どころがはっきりした重森三玲の直筆の書である。
中島さんは、この場所を作る時に自らが大切にしていた「只楽」の書を国宝の表装も手掛ける名のある表具師に染み抜きと表装を依頼してくれていたのだった。
軸が仕上がるのに何年かかるか分からなかったらしいが、有難くこのタイミングで頂くこととなった。

そして、心得なき茶を一杯点てて、2人で軸を眺めた
この茶室の名前は至不亭
至らぬ茶室で只楽しむ
茶道を嗜む仙人に茶が濃すぎると笑われた
感謝の分、茶の量が多かったようだ
ただ、楽しむ。